美容師の方の多くが目標としているのが、独立して自分自身の美容室をオープンさせることです。
しかしその際に最大の関門となるのが、開業資金の準備です。開業資金は物件費や内装費、備品代、運転資金など、内訳は様々あります。そんな1人で開業する美容室の開業資金は、いったいいくらなのでしょうか?
今回は1人美容室の開業資金を内訳とともに解説します。役立つ助成金なども紹介していますので、ぜひ参考にしてみてください。
1人美容室の開業資金はどれくらい必要?
美容師なら誰でも夢見る独立開業ですが、1人美容室を開業するためには、どれくらいの資金が必要なのでしょうか。
1人美容室を開業するのに適切な資金額は、500万円から1000万円程度が目安となります。コンパクトな店舗スペースであれば、500万円を切る金額でも可能かもしれません。
この金額は、日本政策金融公庫が実施した新規開業企業の調査結果から算出されたものです。調査によれば、2022年度に開業した企業の開業費用の中央値は550万円、平均値は1077万円でした。
美容室の場合、シャンプーの設備や大きな鏡、チェア、ハサミなど最低限の備品が必要になるため、極端に安価で済ますのは難しい面があります。しかし、最近では少ない資金で開業する事業者も増えている傾向にあります。
1人美容室の開業資金の内訳
1人美容室の開業資金の目安は500万円〜1000万円と説明しましたが、具体的に美容室を開業する際にはどのような費用がかかるのか内訳を見ていきます。
不動産の賃貸契約費用、改装費
テナントを借りて美容室にする場合は、契約時に賃料の数ヶ月分に相当する敷金や礼金、更には保証金が必要となります。
また、美容室として使えるよう改装費用も発生します。内装の造作工事費や水廻り工事費など、最低でも回送費用のみで50万円前後は見込む必要がでてくるでしょう。
そのため不動産の賃貸契約費用と改装費は物件の状況によって異なりますが、50万円から300万円くらいは必要になります。
店内の備品
店内の備品は、美容室を開業する上で必須の経費項目です。
具体的には、シャンプー台やドライヤー、ミラー、スツール、カットおよびカラー用の椅子などが挙げられます。その他にも、ハサミやブラシ、カラー剤や薬剤を置く棚なども必要不可欠な備品です。これらは一度に費用がかさむため、できるだけ中古品を活用するなどして、コストを抑える工夫も求められます。費用は50万円は必要になるでしょう。
質を確保しつつ、コストパフォーマンスに優れた備品の調達をするのが、1人美容室の開業の成功の鍵となります。
消耗品
消耗品は美容室の運営になくてはならない重要な経費項目です。
カラー剤やトリートメント剤、シャンプー・リンスなどの化粧品のほか、アルミフォイル、ビニールキャップ、ブラシ、タオルなど、施術に欠かせない様々な消耗品が含まれます。
これらは定期的に購入し、在庫を維持する必要があります。消費量を的確に見積もり、最低限の在庫を確保するための初期コストを計上することが重要です。
初期費用として10万円ほどかかるでしょう。
固定費
美容室の運営では、電気代・ガス代・水道代などの光熱費が大きな固定経費となります。
照明やドライヤー、給湯・暖房設備の使用で電気・ガスを多く消費し、シャンプーリンスで多量の水を使用するためです。
さらに、インターネット回線料やプロバイダー料金、固定電話代なども月次の固定経費に計上する必要があります。
小規模な1人美容室でも、こうした固定経費を合計すると月額数万円は確保しなければなりません。
宣伝広告費
宣伝広告費は開業時の重要な支出項目の一つです。
新規のお客様を確保するためには、地域に美容室の存在をアピールする必要があります。具体的には、チラシやポスターの作成・配布、看板の製作、ホームページの作成、インターネット広告などにかかる費用が宣伝広告費となります。
地域性もありますが、開業時の宣伝広告費だけで10万円以上を見込む必要があるでしょう。
1人美容室の開業時におすすめな助成金・補助金
1人美容室を開業する際には、様々な助成金や補助金を受給できる可能性があります。
開業資金のすべてを貯蓄などによる自己資金で賄うのは負担も大きいです。銀行や日本政策金融公庫からの融資で補うのが一般的ですが、助成金や補助金の多くは返済不要な支援金なので、受けられる助成金はうまく活用したいところです。
1人美容室の開業時に活用できる助成金と補助金を2つ紹介します。
創業助成金(東京都中小企業振興公社)
1人美容室が開業時に利用できる助成金として、各自治体が行なっているものがあります。東京都の公益財団法人東京都中小企業振興公社の創業助成金を例として紹介します。
対象は都内で創業を予定している人や創業後5年未満の中小企業者等のうち、一定の要件を満たす人となります。要件には「TOKYO創業ステーションの事業計画書策定支援修了者」「東京都制度融資(創業)利用者」などがあります。
期間は6か月以上2年以下で、助成額は100万円から上限額は400万円です。
助成対象となる経費は、賃借料、広告費、器具備品購入費、専門家指導費などがあり、これらの3分の2以内の割合が助成額となります。
他の自治体でも同じような助成金を実施しているところがあるので、一度自身が開業する地域にあるかどうか調べると良いです。
小規模事業者持続化補助金
小規模事業者持続化補助金は、全国の商工会、商工会議所が窓口となっている補助金です。
小規模事業者が持続的な経営のために計画を作成し、事業拡大や生産性の向上に向けた取り組みが支援される制度です。
商工会議所か商工会の管轄地域で事業を営んでいる人が対象で、非会員でも応募可能です。
基本の補助率は3分の2で、枠によって上限が50万円と200万円があります。
補助対象となる経費は、機械装置費、広告費、ウェブサイト関連費、設備のリース・レンタル料など幅広くあります。
経営計画書や事業計画書などの書類を提出してから審査があり、補助金を受けられるかどうかが決まります。受給した場合は、後に報告書の提出が必要となります。
1人美容室の開業のメリット・デメリット
1人美容室は自由度が高い経営ができる一方で、1人ゆえのデメリットもあります。1人美容室のメリットとデメリットを整理します。
メリット
比較的少ない開業資金で始められる
1人美容室は従業員を雇わずに経営者1人で運営するため、人件費がかからず開業資金を抑えられます。
また、小規模な店舗スペースで事業を始められるので、物件費や内装費も最小限に抑えることができます。さらに備品も最低限のものだけで済むため、コストを大幅に抑制できるのが大きなメリットです。
初めての経営でも店のすべてを把握できるという点で、経営能力を身に着けていくうえでも踏み出しやすい一歩目と言えます。
自分好みの店が作れる
1人で経営する美容室であれば、店内のデザインや内装、雰囲気作りなど、すべてを自分の好みで決めることができます。
大手チェーン店では難しい、こだわりのインテリアやプライベート感のある空間づくりが可能です。また、扱う商品やメニュー、使用する薬剤なども自由に選べるため、自分のこだわりや理念を存分に反映させられます。
お客様に提供するサービスの質や方針も、全て自分次第で決められるのが大きな魅力です。
職場の人間関係に悩まない
ヘアサロンで雇われ美容師として働いていると、合わない先輩や同僚、後輩がいることもあるかもしれません。
人間関係がうまくいかないと仕事にも悪影響が出てしまうことがありますが、1人美容室の場合はそういった心配とは無縁です。
お客様とのコミュニケーションさえ大切にすれば、穏やかな職場環境を保つことができるため、人間関係で悩まされることなく、気持ちを切り替えて施術に専念できるのが大きなメリットです。
固定客がつけば早期の売り上げアップや黒字化が可能
腕に自信がある美容師であれば、すぐにリピーターを獲得して固定客を増やしていくこともできるでしょう。
独立する際に、以前のヘアサロンで担当していたお客様がそのまま顧客になってくれることもあります。
1人美容室ではランニングコストは毎月それほど大きな変動はないので、お客様が増えた分だけ収入もアップできると言えます。
デメリット
1日に接客できるお客様の数に限界がある
1人美容室では経営者1人で全ての業務をこなさなければなりません。
施術中は他のお客様の対応ができないため、時間に余裕を持った予約調整が必要になります。また、長時間労働になりがちで、体力的な負担も大きくなります。
1人での施術には、作業効率の低下などへの対策が求められるなど、様々な限界があるのが現実です。
売り上げにも限界がある
接客できるお客様の数に限りがあるので、売り上げにも限界があります。
顧客が増えれば徐々に売り上げはアップしていきますが、その後は単価を上げるしかありません。単価を上げようとしても、美容室のサービスの相場からあまりにもかけ離れて高くすれば顧客離れを招きかねないです。
売り上げが安定してきた時が従業員を雇って売り上げをさらに伸ばすことを検討するタイミングとも言えます。
病気などでの突然の休業リスクがある
1人体制の美容室では、経営者本人が病気や怪我で働けなくなった場合、誰かに代わってもらえる術がありません。代わりの従業員がいないため、やむを得ず店舗を休業しなければなりません。
収入保障の保険などを使って、ある程度のリスク回避はできますが、長く休みが続くと固定客が他のお店に移ってしまう可能性はあります。
1人美容室の開業の場所
1人美容室を開業する際、場所は売り上げを左右するとても重要な要素です。自身の店のコンセプトやターゲットに合わせて開業場所を決めましょう。
自宅サロン
自宅の一部を改装して美容室として開業する「自宅サロン」は、1人美容室の開業形態として人気の選択肢です。
自宅を活用することで、店舗の賃貸料を大幅に節約できるため、開業資金を抑えることができます。また、通勤時間がなくなり、仕事と家庭の両立がしやすいというメリットもあります。
一方で、自宅サロンには住居部分と店舗部分を明確に区別する必要があり、来客用の入り口や駐車場の確保など、住宅地特有の制約があります。また、住宅街では集客に限界があるため、集客方法を工夫する必要もあるでしょう。
賃貸物件を借りる
賃貸物件を借りる場合は、自分の気に入った場所を選ぶことができます。駅の近くや幹線道路沿いで人通りの多い場所など、集客に有利な物件というのも判断基準になります。
ただ、人通りが多い場所はその分、外の音などの影響を受けやすいです。自身の店が静かでリラックスできるサロンをコンセプトとしている場合は合わないこともあるので、ただ駅に近いというだけではなく、店に合った場所選びが大切です。
近くにどのようなヘアサロンがあり、競合店となり得るかも調べた方が良いでしょう。
また、駅に近い場所や商業施設のテナントのように人が集まる場所は賃貸料も高くなる傾向があります。予算に応じて適した場所を選びましょう。
1人美容室の開業のステップ
1人美容室を開業するまでのステップを簡単に説明します。
美容室のコンセプト、ターゲットを決める
美容室を開業する際、店舗のコンセプトとターゲット層を明確にすることは非常に重要です。
コンセプトは、店舗の雰囲気やサービス内容、価格帯などを決定づける基本方針となります。ターゲット層は、主にどういった年代や性別、職業の方々に来店してもらいたいかを指します。例えば、若者向けのトレンド重視の店舗なのか、落ち着いた大人の女性向けの店舗なのかなど、コンセプトとターゲットを明確にすることで、店舗の方向性が定まります。
明確なコンセプトとターゲットは、効果的な集客とブランディングにも繋がるため、開業前の重要なステップと言えるでしょう。
開業場所を決める
美容室のコンセプトを決めたうえで、それに合う開業場所を選びます。
ターゲット層が多く住む地域や、アクセスの良い場所を選ぶことが大切です。また、競合する美容室の数や立地なども調査し、出店場所を慎重に決める必要があります。
家賃や広さだけでなく、店舗の造作に必要な工事の可否など、物件の諸条件もチェックすべきポイントです。
開業場所は、店舗のコンセプトやターゲット層、予算などを総合的に考慮して決定しましょう。
開業資金を準備する
前述したように、1人美容室の開業には、少なくとも500万円から1000万円程度の資金が必要です。
この資金は、店舗の賃貸や内装費用、備品の購入費や広告宣伝費などに使われます。自己資金で賄えない場合は、金融機関からの融資や、助成金などの利用を検討しましょう。
また、開業後の運転資金として、少なくとも6ヶ月分の固定費に相当する額は確保しておくことが望ましいです。
美容室の内装準備
美容室の内装は、店舗の雰囲気を作り出す大切な要素です。
コンセプトやターゲット層に合わせた内装デザインを考えましょう。壁の色や床材、照明、ミラーや椅子などの配置は、お客様からの印象を大きく左右します。また、シャンプー台や受付カウンター、待合スペースなど、動線にも配慮した設計が必要です。
内装工事は専門業者に依頼するのが一般的ですが、コストを抑えるためにDIYで行う部分を検討してもよいでしょう。ただし、水回りや電気工事など、専門的な部分は必ず業者に任せることが重要です。
保健所への登録、立ち入り検査
美容室を開業するためには、美容師法で保健所への開業申請が必要と定められています。登録せずに無断で開業した場合、30万円以下の罰金となるので注意しましょう。
開設届やシャンプー代などの設備の概要、店の平面図などの書類を提出します。
書類提出後に保健所による立ち入り検査があります。
消防署への届出と現地調査
開業前に消火器や火災報知器、非常警報設備などを整え、消防署に届出をします。
消防署の現地調査を受けて営業許可がおります。
集客の準備
オープン日が決まったら集客の準備を進めます。
美容ポータルサイトへの登録や、SNSの活用やインターネット広告、ホームページの作成など、効果的に集客できる方法を考えましょう。開業記念のキャンペーンやクーポンを用意するのも効果的です。
さらに、地域の住民や近隣の企業に向けたチラシの配布や、ポスティングも検討しましょう。口コミを広げるためにも、開業後は常に高品質のサービスを提供し、顧客満足度を高めることが重要です。
予約システムの導入
インターネットを利用した予約システムの導入も必要です。インスタグラムなどのSNSと連携して予約できるシステムは集客の鍵となります。
予約システムを導入することでネットを通して24時間の予約受付が可能になり、店側が予約や顧客情報を管理する手間を省けます。
1人美容室の場合は全てを自分でこなさなければならないので、予約システムの導入は効率化のメリットも大きいです。
開業届を提出する
1人美容室を開業する際は、個人事業主として管轄する税務署に開業届を提出します。
基本的には開業から1ヶ月以内に税務署に書類を提出すれば大丈夫です。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
今回は1人美容室の開業資金について解説しました。
1人美容室は店のコンセプトや雰囲気などをすべて自分好みに作ることができるのが魅力です。開業当初は集客に苦労することもあるかもしれませんが、美容師としての腕に自信があれば人気サロンへと成長させていくことが可能です。
ぜひお客様の満足度が高いサロンを作ってください。
この記事が1人美容室を開業する方の一助になれば幸いです。
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